19 第十九篇

bana13

株価が同じ水準にあった８２年春、５００円硬貨が発行された。思えばこの年を挟む７０〜８０年代、株価は毎年５００玉を毎年積み上げるように1万円を目ざした。緩やかだが堅実な、そして懐かしい右肩上がりの時代である。 　ドイツの詩人シラーは「時の歩み」をこう詠じた。「未来はためらいつつ近づき、現在は矢のように速く飛び去り、過去は永久に静かに立っている」。時は金なりというが、飛び去った金はいずれ、ためらいながらもどってくる・・・のだろうか。

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地獄のふちを覗いた株価は、首をすくめて上昇に転じた。上げ幅はしかし、ここ４営業日の落ち込みに対しての２割。円高もあって相場の先は見えない。連日の神経質な動きは、市場の震えか痙攣か。 　東証１部の時価総額から１年で約３００兆円が飛んだ。生産、雇用、消費。生の経済活動が被る傷も浅くは済むまい。内外の自動車産業の苦境が全てを物語る。

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パリの地下鉄で、少女のスリ団に囲まれたことがある。動きに気付いて眼前の腕を捻じ上げたら、１００ユーロと５０ユーロの札がはらり。財布には１０ユーロも何枚かあったのに、人の懐中で札を選んでいた。その指技に絶句しながら、走り去った3人組を見送ったものだ。 　２６年ぶりの安値に沈んだ日経平均が昨日、一瞬だが７千円を割った。１年前、株価の６０００円台、７０００円台といえば「１万」を省いた言い方だった。それが省く前から消えている。投資家は、金融危機という米国発のスリ団に万札をやられた思いだろう。連中、１日で世界を一周する足を持つからタチが悪い。