(天声人語)時代と表情
顔が汚れ、ボロをまとった少年は親も家も失った戦災孤児。ギラギラした瞳が「生き抜いてやるぞ」という覚悟を伝える。焼け跡から復興をへて五輪を迎えるまでの十数年間の首都をとらえた写真展「東京わが残像」が世田谷(せたがや)美術館で開催されている(14日まで)。多彩な表情に見入った▼
写真家田沼(たぬま)武能(たけよし)さん(90)が若き日に撮った180点。初詣の寺社でさい銭箱(せんばこ)をのぞき込む男児女児の目に、ひもじさはあっても暗さはない。紙芝居がヤマ場に至れば、子どもたちは引きこまれ、そろって忘我の表情を見せる▼
建設中の東京タワーで働くとび職人は高所で会心(かいしん)の笑顔(えがお)。歴史に残る現場に立っているという高揚感だろう。隅(すみ)田川(だがわ)を行き来する観光(かんこう)舟(ふね)の乗客たちは川面(かわづら)の悪臭(あくしゅう)に顔をしかめる。工業化の弊害が指摘された時代が映る▼
田沼さんは東京・浅草の写真館に生まれ、故木村伊(きむらい)兵衛(へえ)の助手を務めた。写真家として70年の節目を迎えた。「昭和20、30年代は撮るのが無性に楽しかった。私の写真熱中時代でした」▼
これまで120カ国以上を訪ね、子どもたちを撮影してきた。狙うのは日常の表情である。「このごろ日本の子どもたちは表情が優等生風。昔は何がほしい、何がいやだと本心が顔に出ていました」▼
敗戦から立ち上がる日本の姿を描いた映画やドラマは数知れない。それでも、あの時代を駆け抜けた生身の人々の表情や顔つきとなると、じっくり見ることのできる機会は意外と少ない。一瞬の表情の雄弁さを堪能した。
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