声音简介
添加QQ号:3300405804
『春風便(しゅんぷうびん)。あなたの想い、届けます。』
ゆりはポストから桜色の紙を取りだした。手のひらサイズの薄い紙がひらひらと風に揺れる。文字の下には、どうやら切りとって使うらしい桜の花びらの形が点線で書いてある。不思議に思いながら説明を読んでみた。
『あなたの大切な人への想いを書いて切りとり、満月の夜に風に乗せて送ってください。』
ゆりはその紙を持ったまま、近くの公園へと向かった。 桜が満開のその公園で、ゆりは昔よく遊んだ。すべり台もジャングルジムもない、遊具はブランコだけの小さな公園。桜の木だけはたくさんあって、子どもにはあまり人気がなかった記憶がある。その証拠に、今日は土曜,土曜日なのに公園にはだれもいない。
でも、ゆりはこの公園が好きだった。春は桜が満開で、秋はカラフルな葉をつけて。公園の桜の木はいつも、大きくてやさしい。
紙をカーディガンのポケットに入れてブランコに座る。小さく地面を蹴(け)ってゆっくりと動かした。ふと隣を見るとだれも乗っていないブランコがしんと止まっている。ゆりは小学一年生のころを思いだした
毎日のように通った公園。
春の日。夏の日。秋の日。冬の日。
ブランコ。桜の木。
──りくくん。
「りくくん。」
呟いて(つぶやいて)みると七年前の想いがよみがえった。
りくくんは隣の小学校に通っていた。名字も名前の漢字も知らない。おとうさんの仕事の関係で転勤(てんきん)が多いらしく、小学校に入る前に引っ越してきたばかりだった。
初めて出会ったのは小一の春で、その日も確(たし)か土曜日。ゆりは満開の桜を見に、ひとりで公園に行った。公園で一番大きな桜の木の下はお気に入りの場所だった。その桜目指して走ると、だれかがいるのが見える。少しがっかりしながらかけよると、ゆりと同じくらいの男の子が顔を上げた。 やさしそうな眼差(まなざ)しで、男の子はゆりを見つめた。ゆりも見つめかえす。風が吹いて、ひらひらと薄ピンクの花びらが落ちてきた。
「さくら、好きなの?」
透きとおった声で、さくらを丁寧(ていねい)に発音して、男の子はゆりに聞いた。
それからはあっというまだった。ふたりは毎日のように公園で遊び、桜の木の下でひなたぼっこをした。飽きることはなかった。学校が終わって公園に行くのが楽しみで、早くりくくんに会いたくて仕方がなかった。
でも、りくくんは二年生になる直前(ちょくぜん)に引っ越してしまった。
「ぼく、また遠くに行かなきゃいけなくなったんだ。」
とだけ言いのこして。
りくくんが引っ越すと、ただただ寂しくてひとりで公園に行っては泣いてばかりいた。でもそんなゆりも、二年生になると友だちも増え、しだいに公園には行かなくなった。
ゆりはブランコを降りて、公園を出る。
「さくらの花びらを地面に落ちる前に三枚つかむと、願いがかなうんだって。」
りくくんの声と笑顔を思いだす。花びら三枚つかめたのに。「りくくんとずっと一緒にいられますように」って、お願いしたのに。神様は意地悪(いじわる)だ。あのころのようにそう思うと、少しだけ涙がにじんだ。
家に帰ると、迷わずあの小さな紙を点線にそって切って、水色のペンを持った。………
音频列表
- 2019-04
- 2019-04
查看更多
用户评论