「人生は1回限りの旅」。そうつづった寄稿が本紙に載ったのは1年前。精神科医の清水研さんが成人式を迎える若者にメッセージを送った。4千人以上のがん患者と向き合ってきたベテラン医師は、限られた時間を見つめる患者の姿を回想しながら、時の大切さを説いた。
私自身、これまで取材で出会った患者から多くのことを教わった。黒石市の画家・伊藤寛さんは8年前、45歳で大腸がんと診断され、医師から余命宣告を受けた。以来、使命を悟ったかのように、心に映る古里の風景を「津軽三十六景」として描き続けた。こみせ通り、弘前城、藤田庭園…。
集大成となる36作目「生きて津軽」つがる)は、岩木山「いわきさん」から放たれる強烈な生命力を表現した。絵画教室では、子どもたちや患者仲間に熱心に指導した。
昨年9月、伊藤さんは、53歳の若さで旅立った。「好きなことをやったから、夫は幸せでした」。妻・淳子さんは話す。闘病の苦しさの中、生きがいとなったのは、仲間に絵の魅力を伝える楽しさであり、一人娘の千紘さんの成長を見守ることだった。大切な人と共有した時間は、深く、濃く流れる。
戦争や災害、疫病のニュースが世界を覆った年が改まり、新しい年を迎えた。「1回限りの旅」を誰と、どう過ごすか。「きょう一日一日を大切にしたい。生かされていることに感謝しながら」。伊藤さんの言葉が、頭をよぎる。
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