鉄のわな 01
麻布の、とあるやしき町に、百メートル四方もあるような大邸宅があります。
四メートルぐらいもありそうな、高い高いコンクリート塀が、ズーッと、目もはるかにつづいています。いかめしい鉄のとびらの門をはいると、大きなソテツが、ドッカリと植わっていて、そのしげった葉の向こうに、りっぱな玄関が見えています。
いく間まともしれぬ、広い日本建てと、黄色い化粧れんがをはりつめた、二階建ての大きな洋館とが、かぎの手にならんでいて、その裏には、公園のように、広くて美しいお庭があるのです。
これは、実業界の大立者、羽柴壮太郎氏の邸宅です。
羽柴家には、今、ひじょうな喜びと、ひじょうな恐怖とが、織りまざるようにして、おそいかかっていました。
喜びというのは、今から十年以前に家出をした、長男の壮一君が、南洋ボルネオ島から、おとうさんにおわびをするために、日本へ帰ってくることでした。
壮一君は生来の冒険児で、中学校を卒業すると、学友とふたりで、南洋の新天地に渡航し、何か壮快な事業をおこしたいと願ったのですが、父の壮太郎氏は、がんとしてそれをゆるさなかったので、とうとう、むだんで家をとびだし、小さな帆船に便乗して、南洋にわたったのでした。
それから十年間、壮一君からはまったくなんのたよりもなく、ゆくえさえわからなかったのですが、つい三ヵ月ほどまえ、とつぜん、ボルネオ島のサンダカンから手紙をよこして、やっと一人まえの男になったから、おとうさまにおわびに帰りたい、といってきたのです。
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