夏目漱石ーこころー下ー15

2024-01-13 05:08:4005:42 7964
声音简介

「私は奥さんの態度を色々綜合そうごうして見て、私がここの家うちで充分信用されている事を確かめました。しかもその信用は初対面の時からあったのだという証拠さえ発見しました。他ひと疑うたぐり始めた私の胸には、この発見が少し奇異なくらいに響いたのです。私は男に比べると女の方がそれだけ直覚に富んでいるのだろうと思いました。同時に、女が男のために、欺だまされるのもここにあるのではなかろうかと思いました。奥さんをそう観察する私が、お嬢さんに対して同じような直覚を強く働かせていたのだから、今考えるとおかしいのです。私は他ひとを信じないと心に誓いながら、絶対にお嬢さんを信じていたのですから。それでいて、私を信じている奥さんを奇異に思ったのですから。
 私は郷里の事について余り多くを語らなかったのです。ことに今度の事件については何もいわなかったのです。私はそれを念頭に浮べてさえすでに一種の不愉快を感じました。私はなるべく奥さんの方の話だけを聞こうと力つとめました。ところがそれでは向うが承知しません。何かに付けて、私の国元の事情を知りたがるのです。私はとうとう何もかも話してしまいました。私は二度と国へは帰らない。帰っても何にもない、あるのはただ父と母の墓ばかりだと告げた時、奥さんは大変感動したらしい様子を見せました。お嬢さんは泣きました。私は話して好いい事をしたと思いました。私は嬉うれしかったのです。
 私のすべてを聞いた奥さんは、はたして自分の直覚が的中したといわないばかりの顔をし出しました。それからは私を自分の親戚みよりに当る若いものか何かを取り扱うように待遇するのです。私は腹も立ちませんでした。むしろ愉快に感じたくらいです。ところがそのうちに私の猜疑心さいぎしんがまた起って来ました。
 私が奥さんを疑うたぐり始めたのは、ごく些細ささいな事からでした。しかしその些細な事を重ねて行くうちに、疑惑は段々と根を張って来ます。私はどういう拍子かふと奥さんが、叔父おじと同じような意味で、お嬢さんを私に接近させようと力つとめるのではないかと考え出したのです。すると今まで親切に見えた人が、急に狡猾こうかつな策略家として私の眼に映じて来たのです。私は苦々にがにがしい唇を噛かみました。
 奥さんは最初から、無人ぶにん淋さむしいから、客を置いて世話をするのだと公言していました。私もそれを嘘うそとは思いませんでした。懇意になって色々打ち明け話を聞いた後あとでも、そこに間違まちがいはなかったように思われます。しかし一般の経済状態は大して豊ゆたかだというほどではありませんでした。利害問題から考えてみて、私と特殊の関係をつけるのは、先方に取って決して損ではなかったのです。
 私はまた警戒を加えました。けれども娘に対して前いったくらいの強い愛をもっている私が、その母に対していくら警戒を加えたって何になるでしょう。私は一人で自分を嘲笑ちょうしょうしました。馬鹿だなといって、自分を罵ののしった事もあります。しかしそれだけの矛盾ならいくら馬鹿でも私は大した苦痛も感ぜずに済んだのです。私の煩悶はんもんは、奥さんと同じようにお嬢さんも策略家ではなかろうかという疑問に会って始めて起るのです。二人が私の背後で打ち合せをした上、万事をやっているのだろうと思うと、私は急に苦しくって堪たまらなくなるのです。不愉快なのではありません。絶体絶命のような行き詰まった心持になるのです。それでいて私は、一方にお嬢さんを固く信じて疑わなかったのです。だから私は信念と迷いの途中に立って、少しも動く事ができなくなってしまいました。私にはどっちも想像であり、またどっちも真実であったのです。

用户评论

表情0/300

1582606cohr

声音好听

Akirako

嗯,我也觉得好好听,up加油,期待更新

1583243qqer

发音不是很准确,有些听不清楚

圣光背叛了我_pb

比起心感觉更喜欢从此以后,希望作者出从此以后还有我是猫

猜你喜欢
夏目漱石

夏目漱石在日本近代文学史上享有很高的地位,被称为"国民大作家"。他对东西方的文化均有很高造诣,既是英文学者,又精擅俳句、汉诗和书法。写小说时他擅长运用对句、迭句...

by:快雪漫谈

夏目漱石·心

《心》是夏目漱石晚期三部曲《春分之后》、《行人》、《心》中的最后一部。讲述青年学生“我”偶然认识了厌世的先生,成为忘年之交。先生自杀前,写给“我”一封信,解释他...

by:枕边文史馆

夏目漱石 心

【日】夏目漱石《心》写给所有失眠的孤独者,治愈困扰你的心灵创伤很喜欢的一本书仅供自己学习朗读、阅读

by:辰风丽雨

夏目漱石《哥儿》

再也没有一部小说能如此写出我的心声,“哥儿”就是现实版我的缩影,我希望“哥儿”会永远纯真正直下去,把我没有坚持的品行坚持下去。《哥儿》通过一个不谙世故、坦率正...

by:蓝谨

《心》——夏目漱石

《心》是日本著名作家夏目漱石作品,至今仍跻身于日本中学生最喜欢读的十部作品之列。它是一部利己主义者的忏悔录,深刻揭露了利己之心与道义之心的冲突。...

by:库鲁撒气以及古

夏目漱石-坊ちゃん

「坊ちゃん」在国内被译为《哥儿》或《少爷》,是夏目漱石所著的中篇小说,著于明治39年(即西历1906年)。《哥儿》通过一个不谙世故、坦率正直的鲁莽哥儿踏入社会后...

by:三上步的外国语教室

夏目漱石·我是猫

《我是猫》是夏目漱石的代表作。小说以一只猫的视角,观察并评述身为中学教师的主人苦沙弥和他的朋友们的日常生活。小说中的猫语言幽默机智,妙语连珠,作者借其口嘲笑了明...

by:枕边文史馆

我是猫-夏目漱石

识读能力和重音练习,很小的时候就有印象的一本书,想着读却一直没机会读的一本书。经典小说,主角是只不会抓老鼠的猫,有着自己的思想,是一只喜欢思考的猫,每天都在思考...

by:yoki_lpb

我是猫‖夏目漱石

《我是猫》是日本文学大师夏目漱石的代表作,向被奉为世界名著之一。小说通过猫的视觉观察明治维新后的日本社会,以幽默辛辣的语言,嘲笑和鞭挞了人类固有的弱点和金钱世界...

by:涛声听剧