おいもころころ（土豆咕噜咕噜）

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                        おいもころころ

　昔々(むかしむかし)、あるところに村長(そんちょう)さんがいました。村長(そんちょう)は新(あたら)しい家(いえ)を建(た)てたので、村人(むらびと)を家(いえ)に呼(よ)んで、みんなで一緒(いっしょ)に食事(しょくじ)をしようと思(おも)いました。そこで、村長(そんちょう)は村人(むらびと)達(たち)に「新(あたら)しい家(いえ)が出来(でき)たので遊(あそ)びに来(き)てください。ごちそうしますから。」と、あちこちに声(こえ)をかけました。村人(むらびと)達(たち)は村長(そんちょう)に招待(しょうたい)されてとても嬉(うれ)しかったのですが、一(ひと)つ心配(しんぱい)なことがありました。村人(むらびと)の一人(ひとり)が言(い)いました。「困(こま)ったなぁ。私(わたし)は、ごちそうを食(た)べられるのは楽(たの)しみだけど、作法(さほう)がわからないよ。どうしよう...。もしも、村長(そんちょう)さんの前(まえ)で失礼(しつれい)なことでもしたら大変(たいへん)だ。」すると、他(ほか)の村人(むらびと)達(たち)も、「私(わたし)も知(し)らないよ。」「私(わたし)だって全然(ぜんぜん)知(し)らない。どうしようか...。」村人(むらびと)達(たち)は困(こま)ってしまいました。「そうだ！なんでも知(し)っている物知(ものし)り博士(はかせ)のげんあん様(さま)の家(いえ)に行(い)って、聞(き)いてみようよ。」「あぁ、あのお医者(いしゃ)さんのげんあん様(さま)か。」「そうだそうだ！みんなで行(い)ってみよう。」と、村人(むらびと)達(たち)は口々(くちぐち)に言(い)い、早速(さっそく)、げんあん様(さま)のところへゾロゾロと出(で)かけて行(い)きました。

　げんあん様(さま)の家(いえ)に着(つ)くと、村人(むらびと)達(たち)は「げんあん様(さま)、お願(ねが)いがあります。私達(わたしたち)は村長(そんちょう)さんの家(いえ)に招待(しょうたい)されたのですが、実(じつ)は作法(さほう)がわからないので困(こま)っています。是非(ぜひ)教(おし)えてください。」と言(い)いました。げんあん様(さま)は「わかったよ。心配(しんぱい)はいらない、私(わたし)が教(おし)えてあげましょう。私(わたし)と一緒(いっしょ)に行(い)って学(まな)ぶのが一番(いちばん)いい方法(ほうほう)です。さあ、みんなで出(で)かけましょう。」と言(い)って、げんあん様(さま)は着物(きもの)を着替(きが)え始(はじ)めました。村人(むらびと)達(たち)も、げんあん様(さま)と同(おな)じように着替(きが)えました。しかし、村人(むらびと)達(たち)にとっては初(はじ)めて着(き)る着物(きもの)なので、短(みじか)ったり、長(なが)かったり、ひもが一本(いっぽん)なかったり...と、妙(みょう)な姿(すがた)になりました。「さあ、では、行(い)きましょう。」と、げんあん様(さま)は先(さき)に歩(ある)き始(はじ)めました。そして、その後(あと)から村人(むらびと)達(たち)はゾロゾロと付(つ)いて行(い)きました。

　そうして村長(そんちょう)さんの家(いえ)に着(つ)きました。村長(そんちょう)さんは「やあ、よく来(き)てくださいました。さあ、お上(あ)がりください。」と、ニコニコして家(いえ)の中(なか)に案内(あんない)してくれました。そして、広々(ひろびろ)とした部屋(へや)に通(とお)してくれました。それから、ごちそうが運(はこ)ばれてきて、村人(むらびと)達(たち)の前(まえ)に並(なら)べられました。みんなはお腹(なか)が空(す)いているので、グーっとお腹(なか)の音(おと)がしたり、ゴクンと唾(つば)を飲(の)む音(おと)がしたり、いろいろな音(おと)が聞(き)こえてきます。「さあ、どうぞ食(た)べてください。」と、村長(そんちょう)さんが言(い)いました。げんあん様(さま)は「はい、いただきます。」と言(い)うと、村人(むらびと)達(たち)もげんあん様(さま)の真似(まね)をして大声(おおごえ)で、「いただきま～す！」と言(い)いました。

　余(あま)りにもみんなの声(こえ)が大(おお)きいので、げんあん様(さま)はそれを止(や)めさせようとして、「え、えっへん、えっへん。」と、咳払(せきばら)いをしました。すると、村人(むらびと)達(たち)もげんあん様(さま)と同(おな)じように、「え、えっへん、えっへん。」と真似(まね)をしています。げんあん様(さま)は恥(は)ずかしくて、顔(かお)が赤(あか)くなりました。「あぁ、どうしよう。恥(は)ずかしい。誰(だれ)も私(わたし)の咳払(せきばら)いの意味(いみ)がわからないなんて...。あぁ、穴(あな)があったら入(はい)りたい。」と、独(ひと)り言(ごと)を言(い)いました。げんあん様(さま)はここから早(はや)く帰(かえ)りたいと思(おも)いました。「そうだ。早(はや)く帰(かえ)るためには、早(はや)く食(た)べてしまえばいいんだ。」げんあん様(さま)はそう思(おも)いつき、さっさと食(た)べてしまおうと、慌(あわ)てて箸(はし)でおいもをつまみました。

　すると、おいもがつるっと滑(すべ)って、たたみにころころと落(お)ちてしまいました。「あっ、しまった！何(なん)てことだ。」と、げんあん様(さま)が言(い)うと、村人(むらびと)達(たち)はそれを見(み)て、「なるほど。おいもはあのようにするのが作法(さほう)なんだな。」と、次々(つぎつぎ)に真似(まね)をして、わざとおいもを転(ころ)がしました。それから、村人(むらびと)達(たち)は口(くち)を揃(そろ)えて、「あっ、しまった！何(なん)てことだ。」と言(い)いました。げんあん様(さま)はとても困(こま)って、小(ちい)さな声(こえ)で村人(むらびと)達(たち)にささやきました。「これ、これ。恥(は)ずかしい真似(まね)をするなよ。」それでも、みんながまた同(おな)じように、「これ、これ。恥(は)ずかしい真似(まね)をするなよ。」と言(い)いました。げんあん様(さま)は顔(かお)を真(ま)っ赤(か)にして、食(た)べるのをすっかりやめてしまいました。

　今(いま)すぐに帰(かえ)りたくなってしまったげんあん様(さま)は、すばやく帰(かえ)る仕度(したく)をして、村長(そんちょう)さんにあいさつをしようと立(た)ち上(あ)がり、「村長(そんちょう)さん、そろそろ帰(かえ)ります。おいしいごちそうをありがとうございました。失礼(しつれい)します。」と言(い)いました。しかし、そのとたん、何(なん)とげんあん様(さま)の帯(おび)が解(と)けて、ダラリと下(さ)がってしまいました。それを見(み)た村人(むらびと)達(たち)は、「あぁ、失礼(しつれい)する時(とき)はあのように帯(おび)をダラリと下(さ)げるのが作法(さほう)なのか。なるほど。なかなか難(むずか)しいものだなあ。私達(わたしたち)もそうしよう。」と言(い)って、またげんあん様(さま)と同(おな)じように、ダラリと帯(おび)を下(さ)げてあいさつをしました。村長(そんちょう)さんは、村人(むらびと)達(たち)がおかしな姿(すがた)でゾロゾロ歩(ある)いて行(い)くのを見(み)て、とうとう笑(わら)いを我慢(がまん)できなくなってしまい、「ワッハッハ！！！」と、笑(わら)ってしまいました。しかし、村人(むらびと)達(たち)はとうとう最後(さいご)までダラリと帯(おび)を下(さ)げるのが無作法(むさほう)だとは誰(だれ)も気(き)がつきませんでした。