フィルムからデジタルに
新聞社に入社して、また間もないころの夜だった。取材で撮ってきたフィルムを暗室で現象したが、何も写っていない。シャッターを切るたびに巻き上げたつもりだったが、フィルムの入れ方が悪く、空回りしていた。
フィルムを使わず、撮った像をその場で確認できるデジタルカメラでは、まずこんなミスは起きない。銀塩(フィルム)からデジタルへ、写真の世界で新旧の移り変わりが激しく続いている。
ユニカミノルタホールディングスが、「サクラカラー」の名で知られた写真フィルムなどのフォト事業とカメラ事業から撤退するという。ニコンもフィルムカメラからの事実上の撤退を発表した。こうした流れの中で「撤退しません」という富士写真フィルムのコメントが目についた。
「人間の喜びも悲しみも愛も感動も全てを表現する写真は、人間にとって無くてはならないものであり……その中でも銀塩写真は、その原点とも言えるものです」。なかなか熱がこもっている。
簡便さでは、デジタルの方がかなり優位なのだろう。しかし写真とは、絶え間なく流れてゆく時間の中で、ある一瞬をとらえるものだ。そんな「時の肖像」をとどめる手立てとして、愛好家の間ではアナログの人気も根強いそうだ。
フィルムが空回りした写真は、取材の相手方におわびし、翌朝取り直して何とか掲載日に間に合わせた。
30年以上前の失敗だが、その後しばらくは、何も写っていないあのフィルムが夢の中に現われることがあった。
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