駅で暴力の狼藉者
ユーモア話を一つ。電車が毎日のように遅れるので、腹を立てた乗客が駅員さんにくってかかった。
「いつも遅れるのだったら時刻表なんか出しておくな。すると駅員、時刻表がないと電車が遅れたか
どうかわからないでしょう」。
織田正吉さんの『笑いの心ユーモアのセンス』(岩波書店)にあった。道理に合わないことで相手をやり込める詭弁型のジョークだそうだ。昔なら笑っておしまいだが、今は笑った後で心配になる。駅員さん、殴られなかっただろうか。
駅員や乗務員への暴力が止まらない。去年の今頃も同じことを書いたが、減るどころか増えた。全国の25鉄道会社で昨年度に計869件は過去最悪だ。むろん笑い話のようにやりこめたわけではない。強く出られないのを承知の卑劣な暴力である。
よく知られたハインリッヒの法則は、一つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、300の異常があるととく。それに倣えば、一つの暴力沙汰の背後には膨大な暴言や嫌がらせがあろう。駅員さんたちは日々、心を小突き回されているのではないか。
人が暮らす上で、法律より広くモラルの守備範囲がある。法律が城の内堀なら、モラルは外堀だろう。外堀破りの不心得者が多くなれば、内堀を超える狼籍者も増えよう。乗降の人波が駅員さんの目に「怖い地雷原」と映るようでは、日本は悲しい。
弱い立場を捌け口にモンスターとやらが横行する「イチャモンか社会」の一断面でもあろう。いらつく世の中の頭を冷やす、大きな水枕はどこかにないか。
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