ヘンゼルとグレーテル（亨特与格雷特）

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                        ヘンゼルとグレーテル

    昔(むかし)、森(もり)の中(なか)に木(き)こりの家(いえ)がありました。その家(いえ)はお父(とう)さんとヘンゼルとグレーテルという兄妹(きょうだい)が住(す)んでいました。お母(かあ)さんは病気(びょうき)ですでに亡(な)くなっていました。その後(あと)、お父(とう)さんが結婚(けっこん)した継母(ままはは)はとても意地悪(いじわる)な人(ひと)でした。ある時(とき)、この国(くに)がかんばつで食(た)べ物(もの)が食(た)べられなくなってしまいました。それで継母(ままはは)は「このままだとみんな飢(う)えで死(し)んでしまう。仕方(しかた)がないから子供(こども)を捨(す)てようよ。」と夫(おっと)に話(はな)しました。お父(とう)さんは死(し)ぬほど反対(はんたい)しましたが、妻(つま)に押(お)し切(き)られ泣(な)く泣(な)く承知(しょうち)してしまいました。たまたまその話(はなし)を聞(き)いてしまったヘンゼルは、こっそり外(そと)に出(で)て小石(こいし)をたくさん拾(ひろ)い、ポケットに詰(つ)め込(こ)んでおきました。次(つぎ)の朝(あさ)、継母(ままはは)は「さあ、山(やま)に仕事(しごと)に行(い)くよ。」と子供(こども)たちに言(い)いました。二人(ふたり)は継母(ままはは)の後(あと)を付(つ)いて行(い)きましたが、ヘンゼルはポケットに詰(つ)め込(こ)んでおいた小石(こいし)を少(すこ)しずつ道(みち)に落(お)として行(い)きました。何(なに)も知(し)らないグレーテルは「山(やま)に行(い)くのは久(ひさ)しぶりだね。嬉(うれ)しいなぁ。」と大(おお)はしゃぎで付(つ)いて行(い)きました。ようやく深(ふか)い山(やま)に着(つ)くと、継母(ままはは)は「すぐ帰(かえ)って来(く)るからちょっとここで待(ま)っているんだよ。」と二人(ふたり)に言(い)いました。

    しかし、その後(あと)二人(ふたり)がいくら待(ま)ってもとうとう継母(ままはは)は戻(もど)って来(き)ませんでした。やがて、夕方(ゆうがた)になっても迎(むか)えに来(き)てくれないので、グレーテルは恐(おそ)ろしくなって泣(な)き出(だ)してしまいました。ヘンゼルは「お月様(つきさま)が出(で)たら、月(つき)明(あ)かりで道(みち)が見(み)えるから大丈夫(だいじょうぶ)。きっと帰(かえ)れるよ。」来(く)る時(とき)に置(お)いた小石(こいし)をたどりながら家(いえ)に戻(もど)って来(き)ました。二人(ふたり)が帰(かえ)ったのを知(し)った継母(ままはは)は、顔(かお)をこわばらせて「まあ、よく帰(かえ)ったね。さがしていたんだよ。」と言(い)いました。しかし、内心(ないしん)は「一体(いったい)どうやって帰(かえ)ってこれたんだろう。」と悔(くや)しく思(おも)ったのでした。

    次(つぎ)の日(ひ)、木(き)こりと継母(ままはは)は最後(さいご)のパンを一片(ひとかけら)づつ子供達(こども)にあげ、継母(ままはは)がまた二人(ふたり)を森(もり)の中(なか)に連(つ)れて行(い)きました。同(おな)じように二人(ふたり)は森(もり)に残(のこ)され、夜(よる)になっても継母(ままはは)は迎(むか)えに来(き)てくれません。ふくろうはホーホーと泣(な)き、こうもりはバタバタと辺(あた)りを飛(と)び回(まわ)るので、恐(おそ)ろしさのあまりグレーテルは泣(な)き出(だ)してしまいました。ヘンゼルは「心配(しんぱい)しなくていいよ、グレーテル。大丈夫(だいじょうぶ)だよ。お月様(つきさま)が出(で)たら帰(かえ)れるから。今度(こんど)はパンくずを落(お)としてきたからね。」と言(い)いました。お月様(つきさま)が出(で)ると二人(ふたり)は早速(さっそく)来(き)た道(みち)を引(ひ)き返(かえ)しましたが、落(お)としたはずのパンくずがどこにも見当(みあ)たりません。小鳥(ことり)達(たち)のえさになってしまったのです。二人(ふたり)はがっかりしました。あちこち歩(ある)き回(まわ)った二人(ふたり)は疲(つか)れはてて木(き)の下(した)で眠(ねむ)ってしまいました。

     やがて朝露(あさつゆ)が二人(ふたり)の顔(かお)にポトンと落(お)ち、小鳥(ことり)のさえずりが聞(き)こえるころ、二人(ふたり)は目(め)を覚(さ)ましました。小川(おがわ)の音(おと)が聞(き)こえてくるのでそちらに行(い)ってみると、小(ちい)さな家(いえ)が見(み)えてきたので、二人(ふたり)は走(はし)って行(い)きました。近(ちか)づいてみると、何(なん)とそれはお菓子(かし)で出来(でき)た家(いえ)でした。二人(ふたり)は大喜(おおよろこ)びで家(いえ)に飛(と)び付(つ)き「ああ、おいしい。こんなの初(はじ)めてだ。あ、柱(はしら)がチョコレートで出来(でき)てるぞ。それに屋根(やね)はクッキーで、かべはパンだよ。早(はや)く食(た)べよう。」と言(い)って夢中(むちゅう)で食(た)べました。しかし、実(じつ)はそれをこっそり見(み)ていたおばあさんがいたのです。おばあさんは持(も)っていた杖(つえ)を振(ふ)りながら「いい子達(こたち)だね。こっちにお入(はい)り。」と、ドアを開(あ)けてくれました。

    そして二人(ふたり)を中(なか)に入(い)れると、テーブルにあったくだものやお菓子(かし)もごちそうしてくれました。お腹(なか)がいっぱいになった二人(ふたり)は、すぐにすやすやと眠(ねむ)ってしまいました。おばあさんはヘンゼルをこっそりと抱(だ)くと、別(べつ)の部屋(へや)に閉(と)じ込(こ)めてしまいました。ヘンゼルの寝顔(ねがお)を見(み)ながら「ふふふ、この子(こ)はちょうど食(た)べ頃(ごろ)でおいしそうだ。でも、もう少(すこ)し太(ふと)らせてからの方(ほう)がもっとおいしいかな。」とつぶやきました。何(なん)と、このおばあさんは人(ひと)食(く)い魔女(まじょ)だったのです。魔女(まじょ)はグレーテルを起(お)こし、早速(さっそく)こき使(つか)い始(はじ)めました。「すぐに森(もり)へ行(い)ってたきぎを拾(ひろ)っておいで。それから水(みず)の準備(じゅんび)もやるんだよ。さあ、この男(おとこ)の子(こ)に食(た)べ物(もの)をたくさん食(た)べさせるんだ。やせた子(こ)はおいしくないんだからね。」と火(ひ)の杖(つえ)を持(も)って命令(めいれい)しました。グレーテルは恐(こわ)いので魔女(まじょ)の言(い)う通(とお)りにするしかありませんでした。魔女(まじょ)のために働(はたら)きながらも、グレーテルはどうにかしてヘンゼルを助(たす)けることができないかと考(かんが)えました。

   そうしたある日(ひ)、お腹(なか)を空(す)かせた魔(ま)女(じょ)が「今(いま)からヘンゼルを食(た)べるから、かまどの火(ひ)加減(かげん)を見(み)てくるんだよ。」と言(い)いました。グレーテルはとっさに「どうやって開(あ)けるかわからないわ。」と言(い)いました。魔(ま)女(じょ)は「かまどの開(あ)け方(かた)も知(し)らないのかい。お前(まえ)は本(ほん)当(とう)に役(やく)立(た)たずな子(こ)だね。」とかまどの中(なか)をのぞきました。グレーテルはその時(とき)、「それ、今(いま)だ。」と言(い)うと、魔(ま)女(じょ)をかまどの中(なか)に突(つ)き飛(と)ばし、かまどの口(くち)をばたんと閉(し)めてしまいました。そしてすぐにグレーテルはヘンゼルを部(へ)屋(や)から出(で)してあげました。「危(あぶ)ないところだったね。でももう大丈夫(だいじょうぶ)。恐(こわ)い魔(ま)女(じょ)は死(し)んじゃったよ。助(たす)かって良(よ)かった。」と二人(ふたり)は抱(だ)き合(あ)って喜(よろこ)びました。魔(ま)女(じょ)の家(いえ)を後(あと)にして、二人(ふたり)は手(て)をつないで森(もり)の中(なか)をどんどん歩(ある)いて行(い)きました。足(あし)の痛(いた)いのも忘(わす)れて歩(ある)いて行(い)くと、遠(とお)くに懐(なつ)かしい家(いえ)が見(み)えてきました。無(ぶ)事(じ)に帰(かえ)って来(き)た二人(ふたり)を見(み)て、木(き)こりのお父(とう)さんは涙(なみだ)を流(なが)して抱(だ)きしめました。そして「私(わたし)が悪(わる)かったよ。一(いち)日(にち)もおまえ達(たち)を忘(わす)れたことはなかったんだ。許(ゆる)しておくれ。」と泣(な)き続(つづ)けました。継(まま)母(はは)はすでに亡(な)くなっていました。その後(あと)、三(さん)人(にん)は幸(しあわ)せに暮(くら)しました。