朗読 横島小次郎
内容 : ネコになるお風呂。
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むかしむかし、旅の商人の五助(ごすけ)が、仕事で九州の阿蘇山(あそざん)の奥へと出かけました。
ネコ岳の化けネコ
五助は、いつの間にか道を間違えたらしく、岩だらけのところに出てしまいました。
ネコ岳の化けネコ
「さあ、困ったぞ。本格的に、迷ってしまった」
五助が、どうしようかと考えていると、
「ニャー」
と、どこからか、ネコの泣き声が聞こえてきました。
ネコ岳の化けネコ
「はて?
どうしてこんな山の中で、ネコの泣き声が?
ネコ岳の化けネコ
???そういえば、確かこの辺りにネコ岳(だけ)という山があって、化けネコの親玉がいると聞いた事がある。
ネコ岳の化けネコ
???捕まったら、大変だ」
ネコ岳の化けネコ
五助はその場を離れようと、方向もわからないまま先を急ぎました。
すると山の奥に、家の明かりらしい物が見えました。
ネコ岳の化けネコ
「ありがたい。あそこで泊めてもらうとしよう」
明かりに近づくと、そこには立派なお屋敷がありました。
ネコ岳の化けネコ
「すみません。旅の者ですが、今夜泊めてもらえないでしょうか?」
五助が声をかけると、中から美しい女が現れて、
ネコ岳の化けネコ
「どうぞ、おあがりなさい」
ネコ岳の化けネコ
と、座敷へ通してくれました。
「ふうっ、野宿をせずにすんだ。それにしても、立派な屋敷だな」
ネコ岳の化けネコ
五助が荷物をおろして一息つくと、さっきの美しい女が言いました。
ネコ岳の化けネコ
「お風呂が、わいております。
お風呂は、廊下の突きあたりです。
お風呂に入っている間に、ご飯の支度をしておきますね」
「ああ、風呂とはありがたい」
ネコ岳の化けネコ
そこで五助がお風呂に行こうとすると、廊下ですれ違った別の女が、ひどく驚いた顔で言いました。
ネコ岳の化けネコ
「五助どん?」
名前を言われて、五助もびっくりです。
「確かに五助ですが、どこかでお会いしましたか?」
すると女は、五助の耳元に口を近づけて言いました。
「ここは、人間の来るところではありません。はやく逃げないと、ネコの姿にされてしまいます」
「はあ? あんたは、誰だね?」
ネコ岳の化けネコ
「むかし、五助どんの家の近くにいた三毛ネコです。
五助どんには、とても可愛がってもらいました。
ネコ岳の化けネコ
わたしは年を取ったので、ネコ岳の化けネコのかしらに仕えています」
それを聞いて五助は、三毛ネコの事を思い出しました。
「そうか。お前さんは、あの三毛ネコか。急にいなくなったから、心配していたんだ」
ネコ岳の化けネコ
「そんな事よりも、早くお逃げなさい」
ネコ岳の化けネコ
五助は三毛ネコの女に裏口を教えてもらい、命からがら逃げ出しました。
するとやがて、
ネコ岳の化けネコ
「まてぇー!」
と、お湯の入ったおけを手にした女たちが、五助を追いかけてきました。
ネコ岳の化けネコ
女たちは次々と、おけのお湯を五助にかけようとしました。
バシャー!
ネコ岳の化けネコ
お湯が少し足にかかりましたが、
ネコ岳の化けネコ
五助は転げる様に山を下って、ようやく町へ逃げ帰りました。
町の宿屋に入った五助が、お湯のかかった足を調べると、その部分だけネコの毛が生えていました。
ネコ岳の化けネコ
「あの時、もしも風呂に入っていたら、おれは今頃ネコに???」
ネコ岳の化けネコ
それからというもの、五助は二度とネコ岳には近づきませんでした。
おしまい
イラストレーターの夢宮 愛さんが、その後のお話と、「もし、五助さんにお湯がかかっていたら」のおまけエンディングを描いています。
お気軽に、お立ち寄りください。
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