さて、いちばん上のお姫さまは、十五になったので、海の上に浮びあがってもよいことになりました。
このお姫さまが、海の底に帰ってきたときには、妹たちに話したいと思うことを、それはそれはたくさん持っていました。お姫さまの話によりますと、いちばん美しかったのは、お月さまの明るい晩、静かな海べの砂地に寝ころんで、海岸のすぐ近くにある、大きな町をながめたことでした。その町には、たくさんの光が、何百とも知れない星のようにかがやいていたということです。
それから、音楽に耳をかたむけたり、車のひびきや、人々のざわめきを聞くのもすてきなことでしたし、また、たくさんの教会の塔をながめて、鐘(かね)の鳴るのを聞くのも楽しかったそうです。いちばん下のお姫さまは、まだまだ、しばらくのあいだ、海の上へ浮びあがっていくことができないだけに、だれよりもいっそうあこがれて聞きいりました。
ああ、いちばん下のお姫さまは、どんなに熱心に、そういうお話に耳をかたむけたことでしょう!
それからというものは、夕方になると、あけはなされた窓ぎわに立って、青い水をすかして、上のほうを見あげるのでした。そして、そのたびに、いろいろなもの音のするという、大きな町のことを、心に思ってみるのでした。すると、そんなときには、教会の鐘の音までが、遠い海の底の、自分のところまで、ひびいてくるような気がしてならないのでした。
一年たつと、二番めのお姫さまが、海の上に浮びあがって、どこへでも好きなところへおよいでいってよい、というおゆるしをいただきました。
お姫さまが浮びあがったとき、お日さまがちょうど沈むところでした。そのながめが、このうえもなく美しく思われました。
空いちめんが金色にかがやいて、と、これは、お姫さまのお話です。雲の美しいこと、ほんとうに、そのありさまは、言葉などでは言いあらわすことができません。
雲は赤く、スミレ色にもえて、頭の上を流れていきました。けれども、その雲よりもずっとずっと速く、ハクチョウの一むれが、長い白いベールのように、一羽(いちわ)、また一羽と、波の上を、今しずもうとしているお日さまのほうにむかって飛んでいきました。
スミレ(菫)紫罗兰
例:すみれ色 深紫色
お姫さまも、そちらのほうへおよいでいきました。しかし、まもなく、お日さまが沈んでしまうと、バラ色のかがやきは、海の面からも雲の上からも消えてしまいました。
また一年たつと、今度は、三番めのお姫さまが、海の上に浮びあがっていきました。
又过了一年,第三个姐姐浮上去了。
このお姫さまは、みんなの中で、いちばんだいたんでしたから、海に流れこんでいる、大きな川を、およいでのぼっていきました。やがて、ブドウのつるにおおわれた、美しいみどりの丘が見えてきました。
こんもりとした大きな森のあいだには、お城や農園が見えたりかくれたりしています。いろんな鳥がさえずっているのも聞えてきました。お日さまがあまり暑く照りつけるので、何度も何度も水の中にもぐっては、ほてった顔をひやさなくてはなりません。
こんもり:
1、(树木)繁茂
例:こんもりとしげった森
2、丸く盛り上がっている様 浑圆隆起的样子
例:こんもりした丘
火照る:顔や体が熱く感じる
小さな入り江(え)に来ると、人間の子供たちが、大ぜい集まっていました。みんなまっぱだかで、水の中をピチャピチャはねまわっていました。
跳ね回る: 跳来跳去
例:うさぎがおりの中で跳ね回る
人魚のお姫さまも、子供たちといっしょにあそびたくなりました。ところが、子供たちのほうでは、びっくりして、逃げていってしまいました。
そこへ、小さな黒い動物が一ぴき、やってきました。じつは、それはイヌだったのです。でも、お姫さまは、それまでに、イヌというものを見たことがありません。
それに、お姫さまにむかって、イヌがワンワンほえたてたものですから、お姫さまはすっかりこわくなって、また、もとの広々とした海へもどってきました。
それにしても、あの美しい森や、みどりの丘や、それから、さかなのしっぽもないのに、水の中をおよぐことのできる、かわいらしい子供たちのことは、けっして忘れることができませんでした。
Luna711
安徒生经典童话!