13课

1372253phos

子供の時間が終わる少し寂しい匂いだった。昔のことを全て覚えているわけではないが、何かがきっかけになって不図思い出すことがいくつがある。 　父が亡くなって10年余り、子供たちに強請られ、時々公園で一緒に花火をする。花火は子供達にも思い出として残るのだろうか、大きくなって懐かしく思い出すのは、どんなことだろうかと楽しそうな子供の姿を眺めつつ、昼の匂いを思い出す。

1372253phos

どちらにしても、ようやく庭仕事から解放され、兄と顔を見合わせてにっこり頷き合う時の忘れられない嬉しい匂いであった。 　手伝いへのお礼のつもりもあったのだろう、夕涼みがてらと機嫌のいい日の父は私たちを庭へ連れ出し花火をした。もっとも花火といっても、当時のことだから、打ち上げ花火や通りがかりの人を驚かせることを大きな音を出すものはない。 　浴衣姿でゆったりと椅子に腰を下ろす父のところへ花火を持っていき、火をつけてもらう、「これが最後」父がそう言って、火をつけてくれた1本が消えると、それまで火の花をじっと見つめていた目には、一瞬辺りが暗闇になってしまう。その瞬間、もう一度昼の匂いがした。

1372253phos

思い出す(昼の匂い) 　父のことを思い出すと決まって連想する匂いがある。夏の夕方、父は帰宅すると、兄と私を庭へ呼び出して、庭仕事を手伝わせた「ここはこんなふうに」と指示されるままに、二人は汗まみれになって、草を抜き土を運んだ。疲れたなと思い始めた頃に、「ご飯ですよ」と母の声がする、父が「最後に水をやって、それから手を洗って食事にしよう」というと、その時昼の匂いがした。 　正確には、昼の終わりの匂いとでも言うべきだろ、一日中強い日に焼かれた草木が水を得て生き返る匂い。それとも、乾き切った土がごくごくと喉を鳴らして水を飲む匂いだったのだろうか。